Gridという概念は2006年にブレイクすると予想

とある人から「Gridは流行るのだろうか」と尋ねられました。そこで私なりに現状を把握し、分析を試みたいと思います。

Gridというのは1990年代半ばにIan Forsterという人が提唱した概念です。その著書、
「The Grid: Blueprint for a New Computing Infrastructure」という本の中にGridの理念が書かれています。Forster氏はネットワークの急速な発達が1910年頃の電力網(Power Grid)の発達と類似していると指摘し、そこから考えを発展させて電力網ならぬ情報網を構築するための基盤の必要性を説きました。

本の第二章のDefinition of Computional Gridsによれば、


A computational grid is a hardware and software infrastructure that provides dependable, consistent, pervasive, and inexpensive access to high-end computational capabilities.


Gridとはハイエンド級の計算能力にアクセスするための、依存的で一貫的で普遍的で安価なハードウェアやソフトウェア基盤である。

と述べられています。分かりやすく言えば、分散コンピューティング環境を構築してそこから仮想スーパーコンピュータを作ろうという発想となります。

実際にこの概念が実装され、いくつかの検証実験がなされてきました。
地球外知的生命体の存在を探るという目的で1999年に開始されたSETI@HOME白血病やがんの治療法を解析する「UD Cancer Research Project」は有名な事例です。

基本的に科学実験の計算等を並列に行おうという発想が以前までのGridの主流でしたが、IBMを中心にビジネスソリューションの分野でGridを利用できないかという動きが活発化しています。2003年末には、IBMWebサービスとグリッドコンピューティングを統合したソリューションを実現したとのニュースが流れました。
また、Oracle社はその同時期にOracle 10gを発表。このgはGridのgで、2台のデータベースを接続するだけでデータや計算機能力を統合的に扱えるGridが構築できるという発表を行ったようです。

つまり今後は、「計算能力の協調」だけではなく「データベースアクセスの統合」「セキュリティ」「Webサービスの統合」などあらゆるリソースを分散透過的に扱うための基盤としてのグリッドが
主流になってゆくと考えられます。現に今秋リリース予定のGlobus4.0(グリッドを実現するプロトコルオープンソースプロジェクト)ではWSRF(WS-Resource Framework)というコアを採用。グリッドのコアにWebサービスプロトコルを取り入れる予定のようです。

私はタイトルで2006年にGridがブレイクすると予想しましたが、その根拠は以下の通りです。

  • Grid上におけるサービス構築ノウハウが現状では蓄積されていない

ようやくWebサービスという高いレベルでのリソース統合の可能性が出てきましたが、いかんせんまだまだ構築するノウハウが足りないし、開発を支援するミドルウェアも不十分です。この現状が解決されるためには最低1年はかかると考えられます。
ただ、逆に1年あればビジネスの分野での応用ができる段階には来ていると思います。

2006年にリリースされる(という話の)Windowsの次期OS、LonghornにはGridのような計算能力を分配するための機構が備わるという話です。HPCという名前だったと思います。
マイクロソフトのOSは、社会的影響力という意味では相当大きいはず。
(ちなみにMacOSXにはXgridという分散計算用の機構がすでに備わっていますが)

  • PS3の登場

マイクロソフトの他にも、SCEなんかはグリッド技術を採用した「PS3」を2006年に発売するという話がありますね。そういえばXBOXも2006年だったっけか。

「学術分野での実験」から「ビジネスソリューション」、そして「家庭のインフラ」という流れでGridは我々の生活に影響を及ぼすことになるでしょう。成熟したGridでは、家庭にPCが要らなくなるかもしれません。ディスプレイやインタフェースを情報コンセントに接続するだけ、といった世界が実現するのかも。