なぜ「あれ」が思い出せなくなるのか

よく知っている人なのに、その人の名前を言い間違って恥ずかしい思いをすること。うっかりとお店に傘を忘れてしまうこと。忘れたくても忘れられない嫌な体験。思い出を美しいと感じること。


人間の知覚のメカニズムの根幹となっている「記憶」に潜むエラーについてこの本では述べられています。著者は実験認知心理学の第一人者であるハーバード大学心理学部教授ダニエル・L・シャクター。2001年に書かれた本のようです。最近ヒューマンエラー(人間の不注意によるミス)にまた興味を持ち始め、記憶のメカニズムについて学びたいと思い本書を購入しました。


この著者は、人間の記憶のメカニズムを知るために「記憶によって引き起こされるトラブル」に着目をし、そのエラーに関する膨大な事例をかき集め、それを7つのパターンに分類しました。そのパターンとは

  1. 物忘れ(Transience) - 時間とともに記憶が弱まること
  2. 不注意(Absent-mindedness) - 必要なときに思い出すことが出来ないこと
  3. 妨害(Blocking) - 知っているはずなのに思い出せないこと
  4. 混乱(Misattribution) - 見聞きした話を自分の体験と混同すること
  5. 暗示(Suggestibility) - 誘導によって誤った記憶を植え付けられること
  6. 書き換え(Bias) - 現在の経験によって過去の記憶を編集すること
  7. つきまとい(Persistence) - 不快な経験が繰り返し想起されること

であるとのことです。基本的な構成としてはこれらの現象について具体的な事例を紹介し、それらをある程度防ぐためのアイディアを紹介しています。といっても「脳科学」の見地からであったり「認知心理学」の見地からといったかなりアカデミックな内容であり、「おもいっきりテレビ」のようなHow-toでないのでそこはご注意ください:P


私が興味深いと感じたのは、この本の最後の章で、「これらのエラーは、人間が環境に適応するために必要な能力なのである」という説が紹介されている点です。「忘れる能力」が無いと人は「現在いちばん重要な情報の選定」が出来ないし、過去の記憶を書き換えることは「健全な精神状態を保つ」ことに役に立っているという話です(もちろん、間違った使われ方がなされることもありますが)。


自分の脳とは一生つきあってゆかなくてはならないので、もうちょっとバランスよく「記憶」をコントロールできるよう色々心がけてゆきたいものだと思いました:)