ペーパープロトタイピング 最適なユーザインタフェースを効率よくデザインする

GUIアプリケーションを使いやすいデザインにするためには、ユーザビリティテストをしてデザインを改善してゆくプロセスが必要です。しかし、GUIをテストするためには、GUIのプロトタイプを作るコストがかかります。そのプロトタイプを作るためにコード書きやデバッグ作業を行う必要も出てきてしまいます。


そこでこの本は「GUIを紙で作ってユーザビリティテストを行えば、プログラムを1行も書かないでユーザビリティテストが出来る」と主張しています。ふざけているように聞こえるかもしれませんが、著者は大真面目にユーザーインタフェースプロトタイピングの問題を考えており、「ペーパープロトタイピング」が現状のユーザビリティテストのコスト問題を解決する強力な手法であることを本の中で説明しています。


でも、紙で作ったGUIでどうやって状態の遷移を表現するの?と疑問を持つ人も多いでしょう。その答えは単純で、「人間がコンピュータの代わりにGUIの状態遷移を手伝う」というものです。


つまり、「ユーザ」と「コンピュータのロジックの役割をする人(以下、中の人)」が対面的に向かい合い、ユーザは紙で作られたGUIをクリックすると、中の人がGUIの画面を切り替えたり、文字に色をつけたり、メニューを一覧表示するアニメーションを行ったりするわけです。そのやり取りは端から見ると奇妙ですが、当事者同士は楽しくテストを進行でき、既存のアプローチよりも創造的で有益なテストを行うことが出来ると述べています。


実は「中の人」がコンピュータを演じるというこの方法はWizerd of Oz法(オズの魔法使い法)といってユーザインタフェース設計では広く使われている手法です。「理想的なプログラム」を人間がコンピュータを演じることで体現し、その理想的な処理系を使ったユーザインタフェースがどの程度使いやすいものなのかを評価するというのがオズの魔法使い法のアイディアだと、私は把握しています。(このアプローチのもっと詳しい定義、またはどうしてこれがオズの魔法使い法と呼ばれるのか、詳しい方が居れば教えて欲しいです)


本の中には、「ユーザビリティとはどんなものか」「ユーザビリティテストを行う方法」「テストを行う上での心構え」など、ユーザインタフェースデザインを志す人は知っておくべき内容が充実しています。もちろん、「紙でGUIを作る方法」もページを割かれて紹介されています:)。しかし、そのGUIの作り方のアイディアがまたユニークで(文字を選択したときは蛍光ペンセロファンを使って色がつくのを表現するetc..)、読み物としても楽しかったりします。読んでると工作したくなってくるかもしれません。


著者はCarolyn Snyderという女性。元々はIBMユーザビリティに関する研究を行っていた方のようで、現在はSnyder Consultingという会社でユーザビリティに関するコンサルティングを行っています。PaperPrototypingに関するレポートをみると、どのように紙でGUIを作成するのか画像見ることが出来ますよ。


GUIだけでなく分散環境デザインの話にこのプロトタイピングのアプローチを生かせないかなとちょっと考えてしまいました。それが私の研究テーマのひとつでもあるので:)