音楽にみるクリエイティブ・コモンズの可能性(中編)

今月21日の日記で、「著作者の著作権を保護することと、著作物をユーザが自由に取り扱うことが出来ること。この2つの相反する考えを完全に統合することは不可能」であると述べましたが、それらの考えを止揚するアイディアのひとつとして『クリエイティブ・コモンズ』を紹介したいと思います。


著作者が著作権を保護することとは、

  • 著作者が作った著作物をユーザがそのまま利用して商売することを禁じたい
  • 著作者が作った著作物をユーザが改変してそのユーザの著作物であると主張することを禁じたい

ということとイコールに考えられがちですが、よく考えると必ずしもそうではないと言えます。自分が作ったものを他人がそのまま利用して商売にしてもらって構わない人もいるかもしれないし、自分が作ったものを他の人に改変してもらって、さらに進歩的なアートを生み出して欲しいという需要もあるかもしれません。


その根拠となるのが、インターネットにおけるオープンソースコミュニティの持つ文化です。不特定多数の人々が開発プロジェクトに参加して公共的なソフトウェアを作り出すというスタイルが有効であることは、数々のオープンソースプロジェクトが既に実証しています。


著作権の保護とは、著作者が著作物をオリジナルのまま保存しつつ保持することに限らないと言えます。本質なのは、著作物が著作者の意志に反する形で使われないようにすること。分かりやすく言えば、著作者が著作物の利用のされ方をコントロール可能にすることが重要であるということになります。


上記のようなことは私も漠然と考えていたのですが、既にこのような考え方を明晰に論証している学者がいました。それがStanford大学のLawrence Lessig教授です。「CODE - インターネットの合法・違法・プライバシー」「コモンズ」などネット社会における著作権の在り方について論じている本のいくつかはすでに邦訳されて出版されています。


彼は「クリエイティブ・コモンズ」というプロジェクトを2001年に開始し、「不特定多数の人が共有することができる創造物」のネットワークを世界に拡大してゆくためのインフラを作り出そうとしています。このプロジェクトの活動のひとつとして、著作者が著作物を「他人が使ってもいいよ」と宣言するときのライセンスの標準化を行っています。そのクリエイティブ・コモンズが発行するライセンスを「クリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンス(CCPL)」と言います。


CCPLを示すためのバナーは公式ページフォームを利用して発行することが可能です。そのバナーを貼ることでバナーが貼られたページや、そのページにある画像や音楽などのコンテンツがCCPLで公開されていることを示すことが出来るという訳です。CCPLは各国の著作権法と共存が出来る形で運用されることを目標としているため、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンでは日本の著作権に関する現行法との調整確認作業を行っているようです。


ちなみにCCPLで設定できる条件は現在のところ4つです。

  • 帰属表示(Attribution)
    • 著作者がこの項目を設定すると、ユーザが著作物を利用する時に、ユーザは著作者の名前を表記する必要がある。
  • 非商用利用(Non-commercial)
    • 著作者がこの項目を設定すると、ユーザは著作者の同意なしに商用目的に利用できない。
  • 改変の禁止(No Derivative Works)
    • 著作者がこの項目を設定すると、ユーザは著作者の合意なしにコンテンツを改変したり派生作品を作成することができない。
  • 共有条件の継承(Share Alike)
    • 著作者がこの項目を設定すると、ユーザは著作物の持つCCPLライセンスを(ユーザが作った)派生著作物にも同様に反映させなければならない。(ただし、この項目が設定できるのは「改変の禁止」が設定されていない場合に限る)

このクリエイティブ・コモンズのアイディアは、著作者とそのユーザの間にWin-Winの関係を成立させる潜在能力を持っていると私は考えています。次回、このクリエイティブ・コモンズのアイディアが有効に活用されてゆく場合、我々の音楽環境がどのように影響してゆくのかを考察してみたいと思います。


(参考URL)

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