笹原氏の「文字のある生活」

文学部の学友と会う機会がありまして、彼女から本日の「笹原氏の漢字に関する講義」が面白かったという話を聞きました。


その講義の内容は「ネット上の文字の使い方」という内容で、2ちゃんねるにおける文字の特殊な使われ方(「逝ってよし」とか「氏ね」とか、「糸申且力」とか)の傾向と分類を試みたものだったそうです。


笹原氏とは国立国語研究所笹原宏之氏という方で当方の所属している大学の非常勤講師を勤めている方でもあります。学友から何度か笹原氏の授業の話は耳にしていたのですが、その話によると彼の研究テーマは「文字生活」。文字というものが生活にどのように関わっているのかというものを研究する、というものだそう。


そう言うとちょっとかっこ良く聞こえると思いますが、今まで伝え聞く笹原氏の講義の話をまとめてみると、彼は間違いなく(尊敬を込めて)「文字ジャンキー」だと言えます。


全国の地名を調べてただ1度しか出てこない文字をリストアップしただとか、暴走族の書いた落書きの文字がなぜそういう字体なのか分析したりだとか、今までの漫画の特殊なルビつき文字(「強敵」と書いて「とも」と呼ぶみたいな)を分析したりだとか、果ては様々な人間が生活の中で目にした映像(写真)を集めてその写真の中から文字だけを抜き出してPCに記録したりだとか(時刻表の写真があったら時刻表の中の文字を抽出したりするわけです)、どこまで本当か分かりませんが、とにかくそういうことが今まで授業で語られたそうです。女子高生の使うギャル文字の本を手にして、「こんな本を先日手に入れてしまいました」と嬉しそうに語ったらしく、まさに文字ジャンキーを想像させます。そういえば「糸申且力」って、最近2ちゃんねるを見なきゃ出てこないボキャブラリですね。すごいバイタリティ。


笹原氏の学問的スタンスはその著書「現代日本の異体字」の紹介文を見ることで明らかになります。


字体を変化するもの、それに対するレッテル貼りを主観的、人為的なものと位置づけた。それとともに、日本の多様な異体字の現状として、それらに標準を与える漢字施策を含め「漢字流通」としてとらえ、その動態を計量的、客観的に把握した。さらに、それに接触したり用いたりする主体である人間の心のあり方つまり「漢字心理」に踏み込むという試みをあわせて行った。そういう漢字の文献は、本書が初めてであろうと自負する。この施策を含む漢字流通と漢字心理を合わせて「漢字環境」として捕捉し、国語学認知心理学との共同研究によりこれを「漢字環境学」と銘打った。


笹原氏は文字を使うことを「文化そのもの」であり「人間の心」であると捉え、人間が使う文字を記憶に、そして記録に留めておきたいという強い願望があるのでしょう。ゆえに、「文字すべてを受け止める」という覚悟で研究に望んでいるのだと思います。研究者として分野は違えど、尊敬出来る人物だと思いました:)


私も、そのように「何かをつきつめる」人間になりたいものですな。