エモーショナル・デザイン


「使っていて楽しい道具を使ったほうが、人は創造性を発揮できる。では、そのようなポジティブなモノをデザインをするには何に留意する必要があるのか?」


著者はD.A.ノーマン氏。以前のレビューした「誰のためのデザイン?」において、氏は「よいデザインとはメンタルモデルに適合したデザインである」という説を主張しました。しかし、本書では「それだけで世に受け入れられるデザインが可能になるわけではない」ことを認めた上で、「デザインには人間の情動が密接に関わっている」のであるから「情動を揺り動かすようなデザイン」をデザイナは意識する必要がある、ということを主張しています。


本書では、人間の情報処理を「本能レベル」(善悪や安全について素早く判断する等、自動的で生来的な層)、「行動レベル」(日常の行動を制御する層)、「内省レベル」(脳の熟慮する部分の層)という3つのレベルに分け、人がなぜモノを使っていて快いと感じるのか(もしくはその逆)、不格好なものよりもかわいい(もしくはクールな)モノを使ったほうが生産性が高まるのか、その原因を解き明かそうと試みています。

個人的に興味深いと思ったのは、内省レベルにおける「説明するという内省的な喜び」に関する一節です。


このジューサーの魅惑的な道具としてのこの分析は大いに説得力があると言っても、一つ重要な要素が抜けている。それは説明するという内省的な喜びである。このジューサーは物語を生み出す。所有した人は、それを自慢し、説明し、たぶん実演して見せないではいられない。しかし、念のために言うと、このジューサーは実際にジュースを作るためのものではない。スタルクはこう言ったということだ。「このジューサーはレモンを絞るためのものではありません。会話を始めるためのものなのです」

「そこから会話が始まるデザイン」というものは、そのモノの機能以上の価値を持っている、と私も思います:)


工学的には、見栄えや触感、音などのデザイン的な部分は「本質的ではない」モノとして見過ごされがちですが、この本を読むことで、一見無駄にも見える製品の「遊び」の部分が時として非常に重要な意味を持つことが分かります。

「このモノは、我々にどういう情動の変化を与えるのだろう」といったことを考えるきっかけとして、この本はたいへんオススメです:)

(参考)